「ロッシーニ風」という料理名を、聞いたことがある方は多いと思います。でも、何が乗っていて、なぜその名前なのかまで知っている人は、意外と少ない。
160年前のパリで生まれた、ごちそうの原型のような料理
ロッシーニは、作曲家の名前です
ジョアキーノ・ロッシーニ(1792〜1868)。「セビリアの理髪師」「ウィリアム・テル」を書いたイタリアの作曲家です。
この人、37歳で事実上オペラの筆を折ったあと、残りの人生を美食に費やしました。パリに住み、自分でレストランを営み、自宅ではトリュフを探すための豚まで飼っていたと伝わっています。
音楽の頂点を極めたあとに、食べることへ移った。その人物に捧げられた料理が、トゥルヌド・ロッシーニです。
「あっちを向いていてください」
トゥルヌド(tournedos)という言葉の由来に、こんな逸話があります。
パリのカフェ・アングレで、ロッシーニがこの料理を作らせていたときのこと。本人が厨房にまで入ってきて、あまりに細かく口を出すので、シェフがこう言った。
「あっちを向いていてください」(tournez le dos)
それが「トゥルヌド」の語源になった、という話です。
諸説ある逸話なので事実かどうかは分かりませんが、ロッシーニという人の性格を考えると、ありそうな話ではあります。
構成は5つ
古典的なトゥルヌド・ロッシーニは、下から順にこう積み上がります。
- クルトン ── バターで焼いた、または揚げたパンの台
- 牛フィレ肉 ── バターでソテーしたトゥルヌド(フィレの中心部を厚く切ったもの)
- フォアグラ ── 薄く切って、強火で短時間ソテーしたもの
- 黒トリュフ ── ソースにたっぷり
- マデラソース ── マデラ酒を効かせたドゥミグラス
フランス料理のなかでも、これほど高価な食材だけで構成された皿は珍しい。牛フィレ、フォアグラ、トリュフ。どれか1つでも主役になれるものを、3段重ねにしています。
なぜ、パンの台を敷くのか
この料理で一番見落とされているのが、一番下のクルトンです。
これは飾りではありません。肉から出る肉汁と、ソースを受け止めるために敷かれています。
牛フィレは脂が少なく、休ませると肉汁が出ます。フォアグラも、焼けば脂が落ちる。そのまま皿に置くと、肉汁とソースが混ざって皿の上で広がってしまう。
パンを敷けば、それを全部吸います。そして最後にそのパンを食べたとき、一番おいしい。
古典料理には、こういう「見た目は飾りだが、機能がある」要素がよく出てきます。クルトンはその代表です。
考案者には諸説あります
誰が作ったのかは、実ははっきりしていません。
カフェ・アングレのシェフだったアドルフ・デュグレレ説、「シェフの王、王のシェフ」と呼ばれたアントナン・カレーム説、
そして近代フランス料理を体系化したオーギュスト・エスコフィエ説。
いずれにしても19世紀半ば、ロッシーニが生きていた時代のパリで生まれたことは確かです。
およそ160年前。
エスコフィエの『料理の手引き』(1903年)に収録されたことで、世界中の料理人に伝わりました。
今でも成立する理由
160年前の料理が、今も高級店のメニューに残っています!
単純だけれどそれだけ美味しいからだと思います。
牛フィレは、きめが細かく癖がない。言い換えると、それだけだと物足りない部位!柔らかいけどね。
そこに脂の塊であるフォアグラを乗せて、香りの塊であるトリュフを合わせる。足りないものを足していく構成になっている。
さらにマデラ酒の甘みと、ドゥミグラスの深さ。全部が一方向を向いていて、迷いがありません。
12月、この料理を出します
12月のクリスマス営業で、クラシック・ロッシーニをご用意します。
牛フィレ、フォアグラ、黒トリュフ。160年前の構成のまま作ります。各日5食の限定です。
詳細は改めてご案内します。

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