暑い日が続くと、不思議なもので、あんなに好きだったお肉が急に重たく感じられます。焼いている匂いの段階でお腹がいっぱいになってしまったり、一口食べて「今日はいいかな」と箸を置いてしまったり。かといって、そうめんや冷奴ばかりでは体力がもたない。
夏バテ気味のときこそ、豚肉のビタミンB1が必要だとよく言われます。頭ではわかっている。でも体が受けつけない。この矛盾に、毎年夏になると悩まされている方は多いのではないでしょうか。
お肉が重いのは、お肉のせいではありません。「重く感じる食べ方」をしているだけです。
「重い」と感じている正体は、脂の後口
私たちが「肉が重い」と言うとき、実際に感じ取っているのは、肉そのものの量ではなく、口の中に残る脂の膜です。豚の脂は、およそ30〜40度台で溶けはじめると言われています。体温に近い温度帯なので、熱々のうちはなめらかに溶けて、うまみとして感じられます。
ところが、少し冷めた豚肉を口に入れると、脂は完全には溶けきらず、舌や上あごに薄く張りついたまま残ります。この残った脂が、次の一口の味をぼかし、飲み込んだあとも口の中に居座り続ける。これが「重い」の正体です。
フランス料理では、この問題への答えが何百年も前から用意されています。それが酸味です。豚肉に酸っぱいものを合わせる料理が驚くほど多いのは、偶然ではありません。マスタードとピクルスを使ったソース、りんごや洋なしを合わせる仕立て、白ワインビネガーで香りを立てるソース。どれも、脂の後口を断ち切って次の一口を軽くするための設計です。
そして日本の台所には、この役割にぴったりの食材が最初から置いてあります。梅干しです。梅干しは、和の食材の顔をしたフランス的なソースの素材なのです。
豚肉が重く感じられる3つの原因
原因1|焼きすぎて肉汁が抜けている
豚肉はしっかり火を通したい。その気持ちが強いあまり、必要以上に加熱してしまうことがよくあります。加熱が過ぎると筋繊維が縮んで肉汁を押し出し、残るのは水分の少ない、噛みごたえだけが強い肉になります。
噛む回数が増えるほど、口の中に脂が広がる時間も長くなります。しかも肉汁が抜けている分、うまみによる満足感は薄い。「よく噛まないと飲み込めない肉」は、それだけで重く感じられます。
原因2|味付けが塩か甘辛の二択になっている
塩胡椒で焼く、あるいは醤油と砂糖で甘辛く仕上げる。どちらもおいしい味付けですが、共通して酸味がありません。酸味がないと、脂を洗い流す働きが働かず、味が口の中に積み上がっていきます。
特に甘辛味は、糖分が舌に残りやすいため、脂と合わさると後口が二重に重くなります。夏場に焼肉のタレの味が急にしんどく感じられるのは、このためです。
原因3|冷めてから食べている
作り置きした豚肉を冷蔵庫から出してそのまま食卓へ。あるいは、焼いてから他のおかずを作っているうちに冷めてしまった。これが、脂の膜をつくる最大の原因です。
冷たい豚肉を食べるなら、脂の少ない部位を選ぶか、しっかり酸味を効かせるか、どちらかの手当てが要ります。「冷めた豚肉をそのまま」が、いちばん重い食べ方です。
夏に選びたい豚肉の部位
もうひとつ、部位選びも効きます。夏に食べやすいのは、脂の層が薄く均一に散っている部位です。豚ロースの薄切り、しゃぶしゃぶ用のもも肉、そしてヒレ。逆に、この時期に重く感じやすいのが豚バラです。
豚バラが悪いわけではありません。あの脂の層は、じっくり煮込んだり、しっかり焼いて脂を落としたりする料理でこそ生きます。冷たいまま、あるいはさっと火を通しただけで食べると、脂の量がそのまま口に残ってしまうというだけのことです。部位には向き不向きではなく、向いている調理法があるのです。
スーパーで薄切り肉を選ぶときは、赤身と脂の境目がくっきりした「層」になっているものより、赤身の中に細かく脂が散っているものを。前者は加熱すると脂だけが溶け出して分離しやすく、後者は脂がうまみとして肉全体に回ります。
豚と梅のフレンチ仕立て(2人分)
梅干しの酸味と塩気を、フランス風のソースの考え方で組み立てます。梅をそのまま乗せるのではなく、油と合わせてなめらかにするのがポイントです。
材料
- 豚ロース薄切り(またはしゃぶしゃぶ用) 250g
- 梅干し 2個(塩分の強いものなら1個半)
- 玉ねぎ 1/4個
- オリーブオイル 大さじ2
- 白ワインビネガー 小さじ1
- はちみつ 小さじ1/2
- 大葉 4〜5枚
- 塩・黒胡椒 少々
作り方
1. 梅ソースを作る。梅干しは種を外し、包丁でたたいてなめらかなペースト状にします。小さめのペティナイフがあると、種の周りの果肉をきれいに外せて無駄が出ません。玉ねぎはできるだけ細かいみじん切りにし、水にさっとさらして水気をしっかり絞ります。
ボウルに梅ペースト、玉ねぎ、白ワインビネガー、はちみつを入れてよく混ぜ、そこへオリーブオイルを少しずつ、混ぜながら加えます。一度に入れると分離してしまうので、3回くらいに分けて。とろりと乳化して、色が明るくなればできあがりです。
はちみつはごく少量ですが、梅の鋭い酸をまとめて、角のある味を丸くしてくれます。甘みを足すためではなく、酸をなだめるための小さじ半分です。
2. 豚肉に火を入れる。鍋にたっぷりの湯を沸かし、火を止めます。ぼこぼこと沸いた状態ではなく、湯気は立つが泡は出ない、80度前後の状態が理想です。ここに豚肉を1枚ずつ広げて入れ、色が変わるまで1〜2分。
沸騰した湯でぐらぐら茹でると、たんぱく質が急激に縮んで肉が固くしまり、うまみも湯へ流れ出ます。湯の温度を下げるのは、手抜きではなくやわらかさのための工程です。火が通ったらざるに上げ、氷水には落とさず、そのまま冷まします。氷水に落とすと脂が固まり、まさにあの重い口当たりになってしまいます。
3. 盛りつける。皿に豚肉を少しずつ重ねながら広げ、梅ソースをスプーンで線を描くようにかけます。全体にべったり和えるのではなく、かけ残しを作るのがコツ。ソースがついた部分とついていない部分ができることで、味に強弱が生まれ、最後まで飽きずに食べられます。
仕上げに細く切った大葉をたっぷりと、黒胡椒をひと挽き。人肌くらいの温度で食べるのがいちばんおいしく、脂も口に残りません。
今日からできる具体アクション
- 豚肉を茹でるとき、沸騰したら火を止めてから入れる
- 茹でたあと氷水に落とさない。脂が固まると重くなる
- いつもの味付けに酸味をひとさじ足してみる(酢、レモン、梅、マスタード)
- ソースは油を少しずつ加えて乳化させる
- 冷蔵庫から出したら、10分置いて温度を戻してから食べる
この梅ソースは、鶏のささみやゆでた豚しゃぶはもちろん、蒸しなすや冷やしたトマトにも合います。作り置きして冷蔵庫に入れておけば、夏の食欲が落ちた日の頼れる一本になります。
まとめ
夏に肉が食べられなくなるのは、体が弱っているからではなく、料理の設計が夏向きになっていないからです。火を入れすぎない、冷やしすぎない、そして酸味を足す。この3つを押さえるだけで、同じ豚肉がすっと入るようになります。
フランス料理の知恵と、日本の梅干し。出会わせてみると、驚くほど相性がいいのです。お肉から遠ざかっていた方こそ、ぜひ一度試してみてください。
あわせて見たい動画
豚肉に酸味のソースを合わせる考え方は、動画で見ていただくとイメージがつかみやすいと思います。
この記事で紹介した道具・食材
梅の種を外したり、薬味を細く刻んだりする細かい作業には、小回りのきくペティナイフがあると仕事が丁寧になります。
ソースに使う白ワインビネガーは、まろやかなタイプだと梅の酸と喧嘩せずまとまります。
最後に、少しだけ私のYouTubeのご紹介です。チャンネル「French Kitchen」では、フランスで学んだ”家庭でも作れるフレンチ”のコツやレシピを動画で配信しています。文章とはまた違う、手元の動きや火加減の空気感が伝わるはずです。よかったらのぞいて、新しい一品のヒントを見つけてみてくださいね。

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